シスプラチン腎毒性におけるトロンボモジュリンの役割を解明

シスプラチン腎毒性におけるトロンボモジュリンの役割を解明

発表日時 韩国赌场_韩国首尔赌场-【官网】6年10月22日(火) 11時00分~11時20分
場所 生涯研修センター研修室
発表者

本学医学部 法医学講座 教授 近藤稔和
            助教 山本寛記

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発表内容

発表のポイント
  • 薬剤による臓器障害は、治療継続可否、生命予後に大きく影響する
  • 様々な固形腫瘍の治療に汎用されている化学療法剤であるシスプラチンは、しばしば急性腎機能障害を引き起こす
  • 現在、シスプラチン誘発性急性腎機能障害を改善する有効な治療方法は報告されていない
  • 播種性血管内凝固症候群治療薬として臨床応用されているトロンボモジュリンは、抗凝固作用だけでなく抗炎症作用を持つことも知られている
  • トロンボモジュリンの投与は、シスプラチンに応答した活性酸素種生成および小胞体ストレスを抑制することでシスプラチン誘発腎毒性に対して保護的に作用する
1.背景

 薬剤には、病気やけがを治す主作用の他に生じてしまう望ましくない有害な副作用のリスクがある。特に抗がん剤治療において副作用は避けて通れない。腎臓は肝臓と共に薬物排泄臓器であり、薬剤による臓器障害の主要なターゲットとなる。腎臓は体内で産生あるいは吸収された様々な代謝産物、化学物質及び薬剤を濃縮して尿中に排泄する臓器であり、豊富な血液量により薬物の到達量も多く、種々の薬剤によって糸球体や尿細管?間室や血管が障害され薬剤性腎障害が生じる。

 シスプラチン(CIS)は、様々な固形腫瘍の治療に汎用されている化学療法剤であるが、しばしば急性腎機能障害(AKI)を引き起こすことが知られている。AKIは、数時間から数日という短期間で急激に腎機能が低下する病態で、急激な腎機能の低下の結果、毒素の蓄積、体液の貯留、電解質バランスの異常などが出現し、患者は長期の罹患および死亡のリスクにさらされることになる。CISについては、約3割の患者が単回投与後にAKIを発症することが報告されているが、現在CIS誘発性AKIを改善する有効な方法は報告されていない。そこで注目したのがトロンボモジュリン(TM)である。

 TMはトロンビンの単一膜貫通マルチドメイン糖タンパク質受容体であり、血管内の血液が固まることを阻害することから、播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療薬として臨床応用されている。しかしTMは、臨床的に重要な自然の抗凝固経路における補因子としての役割だけでなく、抗炎症作用を持つこともよく知られており、腸炎や肝障害においてその効果が期待されている。

 今回は、CIS誘発性 AKI における TMの病態生理学的役割を解析した。

2.研究成果

 今回の研究では、マウスにCISを投与し、24時間後にTM(対照群にはPBS:生理食塩水)を投与した。その結果、対照群ではCIS投与3及び4日目にBUNとCREが上昇したのに対し、TM投与群では、それらの上昇は有意に抑制された(図1)。

図1

病理組織学的にも、対照群で出血、尿細管壊死、円柱形成が観察されたが、TM投与群ではアポトーシスを含めた尿細管傷害も軽減していたことから、TMがCIS誘発腎毒性を減弱させることを示した。炎症性サイトカインの腎内発現についても、TM投与群で発現上昇が抑えられ、また腎臓に対して保護作用を示すIFN-?およびHO-1の腎内発現については、TM投与群で有意に高く、TM投与はCIS誘発腎毒性に対して抗炎症作用並びに腎保護因子の発現を上方制御することが明らかとなった。

 CIS誘発腎毒性には尿細管細胞での活性酸素種(ROS)の過剰産生が関与していることが知られている。そこで、マウスから取り出して培養した近位尿細管上皮細胞(RPTEC)を用いて細胞内ROSレベルに対するTMの影響を検索したところ、TMにより細胞内ROS産生は抑制された。さらに、CISは小胞体(ER)ストレスを誘発し、最終的にはアポトーシスを引き起こすと考えられている。ERストレスは、カスパーゼファミリーを活性化し、細胞をアポトーシスへと導くことが知られている。特にER膜に関連するカスパーゼ12は、ERストレス誘発カスパーゼ活性化とそれに続くアポトーシスの制御因子であるが、TMの投与はCIS投与後の腎臓におけるカスパーゼ12やERストレス関連因子(ERストレスによって発現が増加するタンパク)の発現レベルを有意に減少させた。

実際、CIS投与の4日後、対照群では多数のアポトーシス細胞が観察されたのに対し、TM投与群ではアポトーシス細胞は大幅に減少した(図2)。これらのことから、TMがCISに応答したROS生成とERストレスを抑制することにより、CIS誘発腎毒性に対する潜在的な保護物質として働くことが示唆された。

図2

3.用語説明
  • BUN(尿素窒素)、CRE(クレアチニン):腎機能の指標
  • IFN-?(インターフェロン?):炎症を強化する作用を持つ炎症性サイトカインであるが、腎障害に対して保護的に作用することが報告されている
  • HO-1(ヘムオキシゲナーゼ-1):酸化ストレスによって発現が誘導されるタンパク質。酸化ストレスから組織を保護する。
  • ROS(活性酸素種):呼吸によって体内に取り込まれた酸素の一部が、通常よりも活性化された状態になること。細胞伝達物質や免疫機能として働く一方で、過剰な産生は細胞を傷害する。
  • 小胞体(ER)ストレス:小胞体機能の回復のためのメカニズム
  • カスパーゼ:細胞死や炎症を含む多数のプロセスにおいて中心的役割を果たすタンパク質分解酵素
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